東京都知事 小池 百合子 様
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会御中

 

オリンピックメダリスト(2012年シルバーメダリスト、米国サイクリングチーム)から食品の生産のために狭い場所に閉じ込められ、残酷な扱いを受けている畜産動物についてと、残酷な扱いが食品に与える影響についてご説明するお手紙が届き、驚かれていることでしょう。

私がなぜこの手紙を書くに至ったかと申しますと、2020年夏の東京オリンピック・パラリンピックでの食事メニューについて懸念があるためです。以下、ご説明いたします。

動物の扱いを懸念すると同時に、私は、人間のこと、人間の健康、栄養のことも懸念しています。アスリート人生の最高の舞台であるオリンピックには、世界からトップクラスの選手が集まるので、高品質の栄養素が求めれるのは当然です。

選手の食べるものが、競技の結果に直結します。最高品質の栄養が、最高の結果をもたらします。飼育過程にストレスが含まれたグレードの低い栄養では、それなりの結果しか出せません。非常に明確です。2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、選手村で、最高品質の食材を提供することが重要となります。

2020年東京オリンピック・パラリンピックに来日する10,500人の選手の食事の材料を決定するために重要な鍵となる科学的根拠、事実、事例を元に説明をいたします。選手村ではケージフリー卵(平飼い卵、放飼い卵)100%、妊娠ストール(妊娠母豚の拘束檻)を使わない豚肉100%を提供することをお願いいたします。この目標値に向かって最大の努力をいただきたくこと、併せて目標の達成の進捗について一般に対し明確に公表いただくことをお願いいたします。このお願いは、過去に行われたオリンピックのスタンダートに近づくレベルです。例えば2012年のロンドンオリンピックでは放し飼い卵、または有機卵が、また豚肉は妊娠ストールなど残酷な飼育を経ていない豚肉が使われました。2016年のリオオリンピックでは、ケージフリー卵と、大手企業は自主的に妊娠ストールを用いて生産した豚肉は使用しませんでした。

また、世界中の国でケージフリー卵に移行する動きが勢いを増していることは注目すべき重要な点です。グローバル展開している大手の小売業、レストラン、食品加工会社が、次々に2020年または2025年を期限に、ケージフリー卵の調達に移行すると宣言をしています。消費者がインターネット、ソーシャルメディア、映画などで畜産動物に対する残酷な扱いを知る機会が増え、ケージフリー宣言の勢いは高まるばかりです。

東京には、世界中から最高の体験を求めて、たくさんの人がやってきます。東京オリンピック・パラリンピックが食材の方針を改めず、世界が受け入れるクオリティに達することができないなら、畜産動物の福祉の向上を目指している世界から東京が遅れをとっていると見られるでしょう。これは深刻な問題です。

まず、典型的な豚肉の生産について、次にバタリケージ飼育の採卵鶏の卵について説明いたします。

豚肉について

EUは妊娠豚の拘束飼育を禁止しています。アメリカでは、フロリダ州、メーン州、ロードアイランド州、オレゴン州、アリゾナ州、カリフォルニア州が妊娠豚の拘束飼育を禁止しています。閉塞的な飼育で生産された豚肉を消費すると、消費側に生理学的に決定的な結果を及ぼします。研究では「商業用の豚肉生産で行われている豚の取り扱いは、急性のストレスを豚に与える」ことが分かっており、ストレスの結果は甚大で、カテコールアミン、グルココルチコイドなどのホルモン量を増大させます(1)。私たちはそれを摂取するのです。グルココルチコイドは経口摂取するもので(2)、筋肉と骨密度、テストステロン(3,4)、免疫力の減退 (5)と関連しています。血糖値、心臓血管機能にも影響する上、説明できない精神状態の変動との関連もあります (4)。これらは、競技を目前にしたエリートアスリートにとっては当然ながら注意すべき要素です。

適切な飼育のもと生産された豚肉は、味も優れており、楽しい食事の経験に繋がります。「ストレスは肉質を左右し、むれ肉や、色の暗い、硬くかさかさした肉になります。ストレス負荷の高い飼育方法で生産された肉質は低い」ということが明らかになっています。ストレスの生物標識のひとつであるアルファアミラーゼは、動きを制限する鼻スネアを装着された1分後に増加するといいます(1)。これは、運動のパフォーマンスのためだけでなく、優れた味のためにも、より良い豚肉の調達が重要であることを示しています。

豚は本来群れで暮らす社会性のある動物ですが、工場式畜産では誕生から7か月程度経過すると単独飼育となり、孤独な状態で2~2.5年を過ごします。自分の排泄物が側にある中で呼吸し、抗菌剤や時にはゴミが混ざっていることがあります。

(注) 妊娠ストールを使わない豚肉 :EUと同レベル(※種付け後4週間までと分娩1週間前以降を除く)でのストールフリーを指します。

卵について

採卵鶏のバタリケージ飼育は、EUで禁止されています。またアメリカではカリフォルニア州、ミシガン州、オハイオ州、ワシントン州、マサチューセッツ州、デラウェア州でも禁止されています。アメリカでは、これに追従する州が増えるでしょう。放飼いで育てられた卵は、従来のケージ式飼育でできた卵よりも高いプロテインを選手に提供してくれます。独立した14の農家の調査報告では「放し飼いで育てられた卵には約4倍のビタミンEが含まれる (7)」という結果が出ています。「ビタミンEは選手村で食事をする選手には重要な栄養素」であり、また「急速なビタミンEの摂取は、競技時のパフォーマンスを高めるために作用しする(8)」と報告されています。放飼い卵は従来のケージ式飼育の卵より、8倍のβカロチンを含み(7)、走行パフォーマンス5,000メーター上げると言われている栄養素です(9)。オメガ3 も3倍含まれ(7)、心臓血管に良く、抗炎症にも効果があります(10)。栄養成分の違いは明らかであり、パフォーマンスを左右し、結果への影響も大変に明確です。

ケージフリー卵も安全な選択です。ドイツ、イギリス、フランス、ベルギー、デンマークなど複数の国での研究が、従来型のケージ卵は人間のサルモネラ‐エンテリティデス(サルモネラ細菌の一つ)に関連があることを報告していますが、放飼いとオーガニック卵との関連性は分かっていません(7)。食品由来疾病のリスクを減少することは、オリンピックの選手村で食事をする選手たちには最大の優先事項であり、最適なパフォーマンスと健康状態を維持するめには、従来型のケージで生産された卵より、ケージフリーで生産された卵が良いことは明らかです。

あるアンダーカバー調査員が「バタリケージの養鶏場を見たことがないというのは、地獄を知らないのと同じ。鶏の糞が約182cmの高さに積み上がっていて、火をつけられたかのように肺が焼けた感じがする(11)。」と話していました。このような環境で生産された食材を、オリンピック村で提供するのですか。回答が「ノー」であることを願います。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックへのお願い

小池百合子東京都知事、そして東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、競技に参加するオリンピック選手のために、これまでのオリンピック競技大会が使用してきた革新的なスタンダードに合わせることができるものと信じています。自由に動き回る動物から得た食材を使用することは、選手の健康、健全、記録追求し競技を支える2020年東京オリンピック・パラリンピックのレガシーとなります。

経験のあるオリンピック選手として私は、日本の畜産動物福祉のスペシャリストである認定NPO法人アニマルライツセンターとザ・ヒューメイン・リーグと共に、組織委員会に採卵鶏と豚の福祉基準を向上のための必要な情報をお渡ししたく、東京でご面会の機会をいただけたら嬉しいです。

以上、何卒、よろしくお願い申し上げます。

敬 具

ドッチィ・バウシュ(Dotsie Bausch)

アメリカ選手団
2012年ロンドンオリンピック銀メダルリスト
米国ナショナルチャンピオン 8回
前世界記録保持者

レベッカ・ソニ (Rebecca Soni)

アメリカ選手団
2008年北京オリンピック、2012年ロンドンオリンピック 水泳
金メダル3回 銀メダル2回

ダスティン・ワッテン (Dustin Watten)

アメリカ選手団
2016年リオオリンピック バレーボール

メーガン・デュハメル (Meagan Duhamel)

カナダ選手団 フィギュアスケート
2018年平昌オリンピック団体戦金メダル,ペア銅メダル
2014年ソチオリンピック団体戦銀メダル

カーラ・ラング (Kara Lang)

カナダ選手団 サッカー
2008年北京オリンピック
カナダホール オブ フェーム

ジェニ・リード (Jennie Reed)

アメリカ選手団 トラックサイクリング
2004年アテネオリンピック, 2008年北京オリンピック, 2012年ロンドンオリンピック
銀メダル
世界チャンピオン

ローレン・フェンドリック(Lauren Fendrick)

アメリカ選手団 ビーチバレー
2016年リオオリンピック
AVPツアー 2015年、2016年ベストブロッカー

タマラ・ジェンキンス (Tamara Jenkins)

アメリカ選手団 カヌー・カヤック
2000年シドニーオリンピック

ジョー・キーサノウスキ (Jo Kiesanowski)

ニュージーランド選手団 ロード&トラックサイクリング
オリンピック3回出場

モーガン・ミッチェル(Morgan Mitchell)

オーストラリア選手団
2016年リオオリンピック 女子 4X400M リレー代表選手

参考文献

(1) Martinez-Miro, S., Tecles, F., Ramon, M., Escribano, D., Hernandez, F., et al. (2016). Causes, consequences and biomarkers of stress in swine: an update. BMC Veterinary Research, 12: 171.
(2) Becker, D.E. (2013). Basic and clinical pharmacology of glucocorticosteroids. Anesthesia Progress, 60(1): 25-32.
(3) Crawford, B.A., Liu, P.Y., Kean, M.T., Bleasel, J.F. & Handelsman, D.J. (2003). Randomized placebo-controlled trial of androgen effects on muscle and bone in men requiring long-term systemic glucocorticoid treatment. Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 88(7): 3167-3176.
(4) Moghadam-Kia, S. & Werth, V.P. (2010). Prevention and treatment of systemic glucocorticoid side effects. International Journal of Dermatology, 49(3): 239-248.
(5) Klein, N.C., Go, H.C. & Cunha, B.A. (2001). Infections associated with steroid use. Infectious Disease Clinics of North America, 15(2): 423-432.
(6) K.C. Undercover Investigator, 2016
(7) Holt, P.S., Davies, R.H., Dewulf, J., Gast, R.K., Huwe, J.K., et al. (2011). The impact of different housing systems on egg safety and quality. Poultry Science, 90(1): 251-262.
(8) Braakhuis, A.J. & Hopkins, W.G. (2015). Impact of dietary antioxidants on sport performance: A review. Sports Medicine, 45(7): 939-955.
(9) Leblanc, K.E. (1998). Beta-Carotene and Exercise Performance: Effects on Race Performance, Oxidative Stress, and Maximal Oxygen Consumption.” LSU Historical Dissertations and Theses. 6846.
(10) Rodriguez-Leyva, D., Bassett, C.M., McCullough, R. & Pierce, G.N. (2010). The cardiovascular effects of flaxseed and its omega-3 fatty acid, alpha-linolenic acid. Canadian Journal of Cardiology, 26(9): 489-496.
(11) Sarah B. Undercover Investigator, 2017